おさんぽの楽しみ方 2020

なんの変哲もない日常を過ごしていると、ふと知らない街へと旅に出たくなる衝動に駆られる。
目的もなく、訪れた街をふらふらと歩きつづける。商店街だったり、飲み屋街だったり、住宅街だったり。
行きたい場所をスマホで検索することもなく、自分の足が向かっている方向にしたがって歩く。
そうすると普段は気がつくことのない場所に出会うことがある。

この文章を書いている2020年は大変な年になっている。
新型コロナウイルスが猛威を奮い、街へ出かけることも許されず、目的もなく外を歩くことを制限されている。
それでも抑えきれない新しい出会いへの意欲は、新たな出会いをもたらす。
遠くへ行けないならと、人の少ない近所を散歩したり、観光地ではない自然豊かな場所へ出かけたりした。

銭湯の裏に週末だけ出店するリアカーの珈琲屋さん、
家電量販店の大きな駐車場にポツンとひとつだけある大きな桜の木、
早朝の岬から眺めるオレンジ色の朝日、
歩道に刻まれた子どもたちの未来へのメッセージ、
フルーツ園の中にある冬はおしりがびちょびちょになってしまう長い滑り台、
9階のベランダから見える毎日ちがう表情を見せる山と空。

そこでしか見れない景色やそこでしか味わえない食を堪能することは、もちろん旅における最高の喜びだ。
目的もなく散歩すると、自分の住む地域や近場にも、そこでしか味わえないものが存在していることに気がつく。
忙しい毎日を過ごしていると忘れてしまうかもしれないが、自分たちが日常を過ごす街も毎日新しく変化しているのだ。

何年か前に長崎県にある離島を訪れたとき、島で暮らす女性がこんな言葉を話してくれました。
「お店もなにもない場所だけど、この道を歩いていると草や花が毎日変わっていることに気がつくんです。この島にきてから、季節が変わっていくことが楽しくなりました。」

日本全国を旅したあと、散歩するのが好きになった。
自分が住む日本のことを知りたいと意気込んで旅に出た私は、自分が住む街のこともよく知らない自分に気付かされた。
新しいことを知ることは、どこにいても楽しめる手段である。
いつになったら自由に遠くまで旅ができるかはわからないけれど、また会える日を思い馳せて日常に戻る。

散歩をすると、日常が楽しくなる。それがおさんぽの醍醐味なのだ。